人生を決める買物Key of My Life

冗談みたいな話をしよう。無論、冗談みたいである以上本当の話だ。大した話じゃあないから、他にやる事が有ったら、後廻しでも良いよ。ああ、そうか、でも大した話じゃあないんだ。ほんの、ちょっとした事なんだ。急かすなよ、ゆっくり話した方が面白いのだ。こんな話は。

私と弟は、……そうだ、この間会ったあいつだよ。兎に角奴とは 180 度性格が違うのだよ。好みも趣向も違う。奴は母にべったりだったし、私は父に厳しく育てられた。私は弟が羨ましかったが、何の事はない。弟も弟で私が羨ましかったのだろう。別に私は母にかまわれなかった訳でもないし、父も弟を躾なかった訳ではなかったから、多分に幼い子供の思い込みと言う物もあったろうね。

あれは私が小学 3年生の時、……弟は幼稚園だったが……、駅前の路上で魔法使いにであった。イヤイヤ、話は最後まで聞き給え。魔法使いはトランプを白紙に変える魔術を見せてくれた。自分が選んだトランプを、渡されて、胸に当てていると、気が付けばトランプは魔術師の手に有って、自分の手にある札は白紙に成っていた。

弟は大層不思議がったが、私は 2回目に観た時、トランプは実は表と裏の 2 枚に別れる仕組みになっている事を発見した。つまり、魔法じゃなくて手品だった訳だ。

弟は小遣いを貰いに母の元にいったが、私は弟をつれて家と駅を往復しただけで、つまらない思いをした。

次の月に、また魔法使いが来て……いやいや、話は最後まで聞き給え。魔法使いはバラバラに成って、元に戻る煙草を見せてくれた。私はまたトリックに気が付いたが、弟は大層不思議がってまた欲しいといったよ。でも、この間のトランプも 3 日で飽きたばかりだったしね。今度は私が母に小遣いを貰って買う事にした。結局、バラバラの煙草と、普通の煙草が 2 種類用意してあった訳だが、バラバラにする機械は、いや、機構、かな。つまり、人の理解を妨げ、不思議がらせるトリックたる部分はそれなりに楽しめた。元が取れたとは言い難いけどね。

その次の月に魔法使いは何を持ってきたと思う? いやあ、びっくりしたよ。2 つの鍵が合ってね、これが外れたり、くっ付いたりするんだよ。手にとって見てみたが、2 つとも金属製だし、外れる物じゃあない。でも、外れるんだ。勿論、くっ付いてる 2 つと、外れてる 2 つをそれぞれ用意して取り替えてる訳じゃない。傷とかを調べたからね。不思議だったよ。

これには慌てたね。売れてしまわないように弟に見張らせて家に走って帰った。どうやってもトリックが解からないんだ。それで母を説得して、買ってきたよ、その物体を。

まぁ、後にそれが知恵の輪と呼ばれる物だと知ってね。つまり存在その物がトリックとも言えるし、トリックが無いとも言える訳だ。

実はまだ有るんだよ、それはね。ほら、これだ。常にデスクの上においてある。今でも、研究に行き詰まるとこれを眺めて考えるんだ……。だから、これは、安い買物だった……。当時は無駄使いと父に叱られたが……。

おい、人が話している間に、さっさと解くな! インド人。